大声で叫び応援を呼ぶ(ボックス3)
反応が無ければ応援を呼ぶ必要があります。BLSコースでよく習う応援としては
・院内の場合
JRC:スタッフ 救急カート 除細動器(またはAED)
AHA:救急コール AED(または除細動器)
・院外の場合
119とAED
です。AHAは動画とともにコースが進んでいくので国内のどこで受けても同じように習うのですが、JRCに関わるコースを受けると院外での応援要請で次のことを言われたことがないでしょうか。
『人も必ず集めてください!胸骨圧迫の交代要員になれるでしょ!?』
これも私としては必須なの??と思うところです。応援の項目を深く掘り下げていくと…
119は必要??
院外で心停止が起きた場合、またはそうなりそうな患者の場合、病院でのケアが必要です。例えその場で心停止から復帰できたとしても、心停止を引き起こした原因そのものはまったく治療されていないことがほとんどです。例えば心筋梗塞など。原因そのものをすぐに治療開始しなければ、再び心停止になることがあり得ます。また救急車には病院に行くまでの間に最低限な処置ができる機材や薬剤が積んであります。119とは院内でのスタッフ、救急カート、AEDすべてを網羅しています。よって119は必須です。
AEDは必要??
AEDは救急隊よりも早く除細動をかけることができれば救命率を上げることができるというデータがあります。
上記のデータを見ると院外で心臓が原因の心停止患者が出たとき、救急隊が到着してからAEDを使用した時の社会復帰率(寝たきりなどにならず元気に生活を送れるようになるまで回復した確率)は20.9%、救急隊が来る前に一般市民がAEDを使用した時の社会復帰率は46%と2倍以上成績が良いことを示しています。
よって、119を呼んで救急車がAEDを持ってくることがわかっていても、近くにAEDがあればそれを先に使用することは理にかなっています。応援要請にAEDを呼ぶことは必須です。
人は必要??
院外で人を呼ぶとき、そのメリットは何でしょうか。
・胸骨圧迫の交代要員
・AEDと胸骨圧迫の併用
・救命の知識の手助け
・救急車への合図
・情報収集や家族のケア
・救急蘇生の質向上の可能性
確かに人が増えることでメリットになる可能性があります。偶然、救急蘇生に特化したメディカルスタッフが捕まれば、蘇生率は更に向上すると思います。
ではデメリットは??
・野次馬にしかならない(SNSへの投稿動画を撮られる可能性も。)
・応援を呼ぶためにAEDが遅れる可能性(AED設置場所を通りすぎて結果的には野次馬にしかならない人を探しに行く)
・AEDの電気ショックでの感電リスクの上昇
・騒音でAED音声聞こえない
・正しい行為への抗議の可能性
実は人が増えすぎるとデメリットもあります。AEDは録音機能が付いていますが、その録音ではあまりに周りの人が大きな声で騒ぐためにAEDの音声がまったく聞こえず電気ショックかけていないこともありました。一部のAEDでは周りに環境によって音声を大きくしてくれるものもありますが限界はあります。また最近では女性に関する蘇生の問題があり、異性の服を脱がせにくいために若い女性の傷病者にAEDを使用しにくいという事実があります。人が増えすぎると、周りから間違った指摘をされてAEDを操作しずらい状況も出てくるかもしれません。
ではガイドラインにはどう書いてあるか…、実はJRCにもAHAにも“119とAED”の2項目しか言及していないんです。
人に関しては、その状況での判断に大きく左右されるため必須にいれていないのだろうと思います。例えば、スポーツの大会会場で人が倒れれば、その会場には救護エリアが設置されているかもしれません。そのような場合は人も呼ぶべきです。それ以外の場合は、まずAEDと119への電話を確実にしてもらうことが良いかもしれません。
私は指導する際、『応援は、119とAEDを要請してください。ガイドラインにもこの2つを要請するように書かれています。場合によって医療従事者や救急対応訓練を受けた方がいるかもしれない状況ではその人を探してもらうこともありです。』と伝えています。
正常な呼吸、脈拍を確認(ボックス4)
呼吸の確認
一般市民向けは、呼吸のみの判断です。医療従事者は呼吸と脈を同時に評価します。呼吸のみの場合も呼吸と脈同時に評価の場合も、10秒以内に確認します。
呼吸の確認は胸とお腹の動きをよく確認できるくらいの位置で評価します。以前は“見て聞いて感じて”というキーワードがあって、胸を見ながら呼吸音を聞きながら、そして呼吸が自分のほおにあたるのを感じながらの評価を推奨しており、かなり患者の口に近い位置での評価を推奨していました。しかし、呼吸音は正常でなくても聞こえることがあるし、感染などを考えれば飛沫があたる距離での確認は微妙です。COVID-19がまだ存在していないガイドライン2015あたりから胸とお腹が見える位置での評価が推奨されるようになりました。別で投稿しますが、COVID-19が疑われる場合はより口から離れて評価することが推奨されています。
呼吸(+脈)の確認はJRCでは10秒以内に評価を推奨しています。AHAでは5秒以上10秒以内です。蘇生行為は10秒以上間があくと確実に蘇生率が落ちるというデータがあります。そのため、いろいろな行為の制限に“10秒以内”が出てきます。AHAが5秒以上としているのは、正常な呼吸は5-6秒に1度程度なので2-3秒で評価してしまうと正常な呼吸を見逃す場合があるからと思われます。JRCもそのことはもちろん気づいているはずですが、あまり細かい数値を出すと覚えるのも大変なので10秒以内としているのかなと…これは完全に私見です。
呼吸の確認はないと判断がしやすいのですが、おかしな呼吸をないと判断しなければいけません。おかしな呼吸とは死戦期呼吸です。口だけパクパクしたり、いびき様の音が聞こえたり、吸ったままの状態が長く続いたりします。そんなおかしな状態がなぜ起きるのでしょうか…。心停止になると、脳への血流が途絶えます。脳は酸素を失うとすぐに機能を失います。ただ、“すぐに”と言っても厳密には脳の中でも、本当にすぐに機能を失うところと、数十秒は何とか頑張って機能を維持する部分とあります。総合格闘技で首を絞めるチョークスリーパーという技がありますが、あの技が完全に極まると技をかけられた選手は気を失ってしまいます。(落ちた!!ってアナウンサーが叫ぶあれです) しかし気を失って試合に負けますがそのまま死亡することはありませんよね? 脳の中で意識を司る大脳が一番酸素を必要としているのですが、首への締め技が完全に極まり脳への供給が途絶えると大脳は数秒で機能を失い意識がなくなります。でもこの時、呼吸を司る他の部分はまだ機能が残っていて呼吸は維持できています。更に数秒供給が途絶えたままだと今度は呼吸の機能を失っていきます。なので格闘技では意識を失うとレフリーが大慌てで締め技を解除させます。そのまま放っておくと確実に死ぬからです。締め技が解除されると酸素の供給が勢いよく再開され、呼吸はそのまま維持し、意識も回復します。 では心停止では??心停止に陥ると脳への血流が途絶えどんどん機能は失われていきます。数秒で意識を失い、更に呼吸のコントロールも失っていきます。しかし、なんとか呼吸をしようとする動き(口がパクパクする動き)だけがしばらく見られる場合があります。これが死戦期呼吸です。ここで注意することは死戦期呼吸とは心停止になった後に出てくる症状であるということです。死戦期呼吸という言葉に呼吸が付いているのでしばしば“何とか生きている状態”と勘違いされますが、死戦期呼吸は心停止になっている証拠です。よって死戦期呼吸のような正常ではない呼吸が見られたら、呼吸がないものとして判断をしなければなりません。しばしば医療従事者の方は下顎呼吸と判断を迷います。下顎呼吸は必至に呼吸をして、酸素化を維持しようとする動きの1つです。これは呼吸として成り立っている動きです。死戦期呼吸は呼吸として成り立っていない動きです。確かにその判断が難しいのですが、判断に迷えば死戦期呼吸として捉え、胸骨圧迫を行います。下顎呼吸であれば嫌がる行為が出るので嫌がったら胸骨圧迫を中止してください。
脈の確認
脈の確認は医療従事者にのみ求められる手順です。この時の脈確認は頸動脈で確認します。心停止とは脳に血流が供給されているかどうかで判断します。心臓がたとえどんな動きをしていたとしても脳に血流が運ばれていない(頸動脈が触れない)ならば心停止です。脈の触知としては橈骨動脈や鼠経動脈を触れてもいいか聞かれることがありますが、心停止を判定する推奨としては頸動脈です。これらの脈は血圧がそれぞれ頸動脈は血圧60以上、鼠経動脈は血圧70以上、橈骨動脈は血圧80以上と触れるラインが違います。よって、頸動脈が触れる(心停止でない)時でも橈骨動脈は触れない場合があります。このようなことから反応がない方で心停止を疑う場合は頸動脈を触知します。もし、その人が意識があるけど朦朧としてる、話しているから心停止呼吸停止はあり得ない、どれくらい血圧あって頭しっかりしているのかな??と思う場合は橈骨動脈を触れることが理にかなっています。脈は呼吸と同時に10秒以内(AHAでは5秒以上10秒以内)で確認します。この時、脈が触れているかどうか確信が持てなければないものだと思ってください。『うーん…脈よくわからん!胸骨圧迫して!!』これ臨床ではよくあります。ある報告によれば熟練の医師看護師に脈の触知のテストをした結果、正解率は5割くらいだったそうです。それくらい曖昧なものだと思って、あやしければ心停止の判断で胸骨圧迫を行ってください。
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