BLS(一次救命処置)を掘り下げる 

CPR(ボックス5)

胸骨圧迫

以前は心臓マッサージという言い方をしていましたが、ほぼ胸の中央にある心臓が左に少し傾いているために

『心臓は胸の左にある』という誤った情報をしばしば耳にします。結果、心臓マッサージが浸透していた時代は救助者が一生懸命左の胸を押す場面がありました。身体の左側を押す行為は蘇生効果が非常に少なく、肺損傷などの危険性は正しい圧迫と比べ非常に高くなります。

そのため、胸の真ん中にある胸骨の下半分を押すことでその下にある心臓を有効に圧迫できるという狙いから心臓マッサージ→胸骨圧迫と名称が変更されました。

胸骨圧迫を行うときは

・強く(約5㎝で6㎝を超えない)

・速く(100-120回/分)

・絶え間なく(胸骨圧迫をしていない時間をできるだけ少なく)

・完全な圧迫解除(リコイル)

のスキルで行います。ただこの“強く”というスキル、よく相談されることがあります。それは深さが“約5㎝”なのか“少なくとも5㎝”なのかです。実はJRCでは約5㎝、AHAでは少なくとも5㎝なんです。日本人の体格もあって、JRCでは4.7㎝あたりが最適という見解があったことから約5㎝を採用しています。日本人の女性は世界基準と比べてやや体格が小さいので、講習会でも5㎝まで到達できないことが多く約5㎝で教えることができる時は非常に助かったりします。筆記テストがあるコースで『胸骨圧迫の深さは少なくとも5㎝に〇をつけたら約5㎝だと✖にされました。』と相談されたことがありましたが、これはちょっと意地悪だなーと言う感じがします。どちらで覚えないといけないという決まりはありません。日本ではJRCもAHAも採用されることがあるので。自身の環境で使っている言葉で覚えれば大丈夫です。

リコイルに関しては一般人向けのBLSアルゴリズムに採用されていないので、必須ではないようですが、スキルとして覚えておいた方がいいです。心臓はスポイトと同じで、押し始めが十分広がった状態でないと適正な深さまで押しても中身が十分に拍出されません。しっかりと押し始めの位置まで戻すことが重要です。

人工呼吸

口対口(マウストゥマウス)による人工呼吸の重要度は5年毎にガイドラインが更新される度、推奨度が低下している傾向にあります。普通に息を吸って人工呼吸のために吐き出す呼気には大気中の酸素濃度21%から約5%程度低下していると言われています。低い酸素濃度でも酸素化する力は確かにありますが、人工呼吸にはもう1つ重要な問題があります。それが胸骨圧迫の中断です。人工呼吸を行うためには救助者が1人か複数かに関わらず、胸骨圧迫を止めて換気をしなければなりません。胸骨圧迫は蘇生を行う上で最も重要な行為の1つで、中断が最小限にしなければなりません。明確な時間として、10秒胸骨圧迫の中断があると蘇生率が落ちると言われています。そのため人工呼吸を行うならば、10秒以内に2回行い、すぐさま胸骨圧迫に戻らなければなりません。熟練された人でなければ10秒以内に行うことは至難です。また、どんなに感染防護の手段をとってもマウストゥマウスには感染のリスクが付きまといます。そのような理由があって、一般市民に向けては“人工呼吸の技術と意思があれば”とし、医療スタッフに向けては人工呼吸ができる器具が届くまでは胸骨圧迫のみで行うとしています。

一般の方からは『傷病者の家族の前で自分が感染したくないという理由でマウストゥマウスしないことは訴えられたりしないのか。』と聞かれることがありますが、実は病院以外での成人による心停止では、マウストゥマウスと胸骨圧迫を交互にやるよりも、胸骨圧迫だけをひたすら続けた方が、蘇生率が高かったというデータも出ています。

このデータを説明すると、『えっ?なんで??酸素なくて大丈夫なんですか?』と聞かれます。この説明には2つの説明が必要です。

1つめは胸骨圧迫がもたらす効果です。健康な心臓は100%の状態で機能しています。心停止になると、心臓が病気などにより突然機能を失います。ちょっと難しい言葉を使うと心筋梗塞による心室細動などです。心停止となると放っておけば1分間に10%ずつ蘇生率が落ちていくので、胸骨圧迫を行います。胸骨圧迫とは本来心臓が自分の力でバックンと収縮する機能を外から押すことで代行する行為です。ではこの時、胸骨圧迫で普段の心臓の収縮のどれくらいをフォローしていると思いますか??

ちなみに心停止を放っておくと1分間に10%ずつ低下していきますが、胸骨圧迫をした場合、蘇生率は1分間に3-5%程度の低下に抑えることができます。良いように聞こえますが蘇生率は緩やかとは言え落ち続けるので、“胸骨圧迫を完璧に行っていても完全な心臓の代行はできない”ということを示しています。

胸骨圧迫は普段の心臓の1/3程度のフォローと言われています。完璧なスキルでもです。

2つめは心停止になった状態です。成人が心停止なる原因は、上記で説明したような心臓の病気で、ある時突然機能を失います。それまで100%(もしくは近い状態)から急に0%になります。身体の血液の流れが急に止まるため、身体の中にはまだ酸素が十分含まれた血液もたくさんありますが、心臓が止まるためその血液を循環させることができません。

これら2つの知識がわかると、院外における成人の心停止に対する蘇生が胸骨圧迫のみで効果が見込まれる理由が理解できてきます。

突然心臓の機能を失った心停止患者にすぐさま胸骨圧迫をした場合、身体の中にある酸素がたくさん含まれた血液を循環させることができます。ただし、いずれは血液内の酸素を使い果たすときがきます。ではそのいずれとはどれくらいなのか。今、息を止めてみて何分持ちますか?息を止める=身体の中の血液の酸素が失われていく、ことになりますが、だいたい2分くらいは頑張れば止めることができるのではないでしょうか。3分くらい止めると気を失いそうですが、本当に気を失う覚悟で止めればなんとか止めれるかもしれません。(実際にやっちゃダメです。) これは心臓が100%の力で動いて循環しているときです。胸骨圧迫では??おおよそ1/3の循環です。よって酸素を消費する量も普段の1/3くらいになります。そうすると、息を止めて酸素がなくなる時間の3倍くらい酸素が持つことになります。2-3分×3=6-9分。6-9分は新しい酸素がなくてもなんとか持つ計算です。救急車到着の全国平均は8.7分、ある程度栄えた街だと6分以内なのでギリギリ持つ計算になります。

ただし、これは心臓の病気で心停止になった場合です。窒息により心停止になった場合は、息ができなくて身体中のすべての酸素を失って倒れて心停止になるので、胸骨圧迫のみでは新しい酸素を運ぶことができないことが考えられます。現在、胸骨圧迫のCPR(心肺蘇生)は普及が進んでいますが、除外する条件に窒息が想定される傷病者があることを覚えておいてください。小児・乳児は窒息からの心停止が多いので、できるだけ人工呼吸を含めた蘇生が推奨されています。

AED(ボックス6)

AEDを使用します。AEDでは

1.電源を入れる(フタを開ければ自動で入るものが多い)

2.パッドを貼る(右胸と左の脇腹) コネクタを差し込むタイプのものはコネクタを差し込む

3.心電図解析の時は離れておく。

4.ショックが必要と解析したら充電後、放電

5.すぐにCPR(胸骨圧迫)

という手順を習ったと思います。AEDを扱う上で指導者からの言葉で迷うところは…よく聞くのが

『実際に使うときも必ずパッドを貼った後にコネクタを差し込んでください』でしょうか。これよく指導者が間違っているのですがあくまでこれは練習用のAEDトレーナーを使う上での注意点です。AEDトレーナーはコネクタを差し込むタイプのフィリップスFR-2という機種が全国的によく使われていて、このトレーナーは確かにコネクタを差し込むと次の工程『心電図を解析します。身体に触れないでください。』と話しだすのでコネクタを差し込んだ後にパッドを貼ろうとすると困ってしまいます。なので練習の時にはパッドの後にコネクタを差し込むことが好ましいです。

しかし実機は違います。どのタイミングでコネクタを差し込んでいても、AEDはパッドが身体に張り付いて電気の抵抗を確認してからしか次の工程に移りません。よってパッドを貼ってコネクタを差し込んでも、コネクタを差し込んだ後にパッドを貼ってもまったく問題ありません。最初からコネクタが刺さっているものも同様にパッドを貼って電気抵抗を確認すると次の工程に進むようになっています。

オートショックAED

2021年、国内のAEDでもオートショックの取り扱いが可能になりました。オートショックとは、パッドを貼って心電図を解析したら、必要によって充電の後、そのまま電気ショックまで行う(行ってしまう)AEDです。個人的にはリスクが大きすぎるんじゃないかと思ってますが。。。今後少しずつ出回っていくかもしれません。オートショックAEDにはロゴが付いていてます。(わかりにくいですが。) 2021年9月現時点では日本ストライカーからのみ販売されています。

まとめ

いかがでしょうか。コースを受講して悶々とした部分があった方にとって少しすっきりすることができれば幸いです。いざというときには、多少手順などを間違ったとしてもなんとかやってみることがとても大事です。胸骨圧迫ができれば救命率は2倍以上、AEDを使えばさらに2倍以上救命率は上がります。勇気を出して自身の背中をPUSHすることが大事になります。

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